『ヴェノム(字幕・3D・IMAX)』

TOHOシネマズ日比谷が入っている東京ミッドタウン日比谷の地下駐車場で撮影したパンフレット。

原題:“Venom” / 監督:ルーベン・フライシャー / 原案:ジェフ・ピンクナー、スコット・ローゼンバーグ / 脚本:ジェフ・ピンクナー、スコット・ローゼンバーグ、ケリー・マーセル / 製作:アヴィ・アラド、エイミー・パスカル、マット・トルマック / 製作総指揮:ハワード・チェン、エドワード・チュン、トム・ハーディ、デヴィッド・ハウスホルター、スタン・リー、ケリー・マーセル / 撮影監督:マシュー・リバティーク / プロダクション・デザイナー:オリヴァー・ショール / 編集:アラン・ボームガーテン、メリーアン・ブランドン / 衣装:ケリー・ジョーンズ / 視覚効果スーパーヴァイザー:ポール・フランクリン / キャスティング:ジョン・パプシデラ / 音楽:ルードヴィッヒ・ヨーランソン / 出演:トム・ハーディミシェル・ウィリアムズリズ・アーメッド、スコット・ヘイズ、レイド・スコット、ジェニー・スレイト、メローラ・ウォルターズ、ペギー・リュー、マルコム・C・マーレイ、ソープ・アルコ / 配給:Sony Pictures Entertainment

2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:アンゼたかし

2018年11月2日日本公開

公式サイト : http://www.venom-movie.jp/

TOHOシネマズ日比谷にて初見(2018/11/8)



[粗筋]

 カールトン・ドレイク(リズ・アーメッド)が立ち上げたライフ財団が打ち上げた宇宙探査艇が、地球へ帰還する際、トラブルを起こし墜落する。機体には複数の“サンプル”が保管されていたが、そのうちのひとつは、何処かへと失われていた。

 サンフランシスコのテレビ局に番組を持ち、様々な社会問題に体当たりで取材を行うことを売りにしているジャーナリストのエディ・ブロック(トム・ハーディ)は、会社の指示によりドレイクを取材することになった。ライフ財団には前々から、相次ぐホームレスの失踪に関わっているという噂があったため、エディは追求する材料を探していたが、ちょうどライフ財団の訴訟を手懸けることになった弁護士で、エディの恋人でもあるアン・ウェイング(ミシェル・ウィリアムズ)のもとに届いたメールに、人体実験に利用されたと思われる死亡者の名前を見つけた。

 そしてインタビューの際、ドレイクにそれらの情報を突きつけるが、すぐさま警備員によって追い出されてしまう。それどころか会社も馘になり、同様に弁護士事務所を解雇されたアンからは婚約指輪を突き返されてしまった。一夜のうちに、エディは何もかも失ったのである――

 それから半年後。エディはすっかり困窮しきっていた。ジャーナリストとしての仕事とは無縁になり、日雇いの仕事で辛うじて食いつないでいる。

 そんな彼の前に、ライフ財団の研究員であるドーラ・スカーズ(ジェニー・スレイト)が接触してきた。ドーラ曰く、やはりライフ財団では人体実験が行われているのだ、という。やがて資源不足、食糧危機に陥り、新たに新天地を求める必要に駆られる人類が移住先で円滑に適応できるためには、地球外生命体との融合を目指すべきだ、というドレイクの方針により、探査艇によって運び込まれた寄生体“シンビオート”の実験台として、複数のホームレスが施設内に監禁されているのだという。エディが失脚した経緯を知るドーラは、彼に真相を暴いて欲しい、と懇願する。

 ドーラの手引により研究所に潜入したエディは、実験設備のなかに顔見知りのホームレス女性・マリア(メローラ・ウォルターズ)の姿を見つけ、咄嗟に救出を試みる。しかし、実験室を脱するなり、狂乱したマリアはエディに襲いかかり、その身体から何かがエディへと乗り移った。

 直後、警備員に発見されたエディは、慌てて逃走を図る。背中に向けられた銃口を必死にかわしながら、エディは自らの身体に異変が起きていることを、はっきりと感じていた――



[感想]

 本篇ではそんなことはまったくと言っていいほど匂わせていないが、ヴェノムはマーヴェルコミック、とりわけスパイダーマンの物語と縁の深いキャラクターだという。実はサム・ライミ監督による『スパイダーマン3』にも登場しているが、ここではその名前は明確に示されていなかった(と記憶している)。だから、『~3』を観ていても、このキャラクターを知らなかった、というひともいるのではなかろうか。コミックの読者にとっても、あそこでのヴェノムの扱い、表現は満足のいくものではなかったようで、本篇は待望の作品だった。

 コミックには接しないまま(アメコミについてはおおむねこの姿勢を貫いている)私だが、本篇を観ると、不満の声が逢ったのも納得がいくし、本格的な登場が待ち望まれていたのも理解できる。個性豊かなマーヴェル作品のキャラクターの中でも、これは特に興味深く、魅力的かも知れない。

 人間に寄生し人間を喰らう、という特徴だけならシンプルに“ヴィラン”ではある。ただ、劇中で“シンビオート”と名付けられた寄生生物にも、彼らなりの個性があり、違った主張がある。それが、エディ・プロックという男と結びついたことで、化学反応を起こす。

 未見の方はもちろん、原作すら知らない方のためにこれ以上はとりあえず伏せておくが、こうした変化と、結果的に露わになるヴェノムの魅力を、本篇は順を追って引きだしている。序盤では、人間を襲い生物に寄生して支配し、そして人間そのものを喰らう“シンビオート”の生態をホラー寄りの演出で描き出す。だが、いざエディ・プロックに寄生したあたりから、少し状況が変わってくる。

“シンビオート”の生態は人間の“天敵”になりうるものだが、エディ・プロックも普通の人間からしてみればアウトローだ。正義感はあるが手段を顧みない悪質な一面もあり、それ故に収めていた成功を失い一夜にして凋落する。ドーラの密告によりライフ社の研究所に潜入して実態を探ろうとするが、それも経緯を思えばいささか逆恨みのきらいがあり、はじめから“負”の側面を覗かせている。そして、そんなエディ・ブロックと、彼の自由を制限しつつも特殊能力をもたらしうる“シンビオート”と結びつくことで、物語は違ったトーンを帯びてくる。

 他のマーヴェル出身のヒーローたちも、それぞれに多彩な背景を持っているが、ヴェノムはそのなかでも特異だ。抗えない“本能”を持ち、必要とあらば人を傷つけることは厭わないが、かといって彼らが“ヴィラン”になりきらないのは、そこに厳然たるルールが存在しているからだ。そして、そのルールの枠内にある限り、彼らは“ヒーロー”にもなり得る。

 コミック・シリーズではこのヴェノムの魅力的な設定を多彩に活かしており、様々な立ち位置で活躍する作品があるそうだが、本篇は恐らくその魅力のごく一部しか活かしていない。それが原作からのファンにとっては依然として不満なところだろうが、しかし顔見せとして、その魅力の端緒はしっかり披露することに成功している。

 アクション・シーンにおいてもそれは同様で、“シンビオート”という生命体独特の生態を活かし、この映画ならではのアクションを展開している。エディがハンドルを握る一方で寄生体が触手を伸ばし追っ手を攻撃したり、勢いあまってバイクから離れてしまいそうになったエディを空中で捕らえバイクに引き戻すくだりなど、まさにこのヴェノムならではの趣向だ。

 しかもそこに、バイク主体のカーチェイスやドローンでの襲撃など、細かなアイディアをちりばめて更に彩っている。ヴェノムというキャラクターならではの展開やアクション表現自体も魅力的だが、本篇のスタッフはそこに甘んじず、更にエンタテインメントとしての精度を高める工夫を凝らしている。

 本篇だけを参照しても、恐らくヴェノムというキャラクターが喚起するドラマ、魅力を充分に引きだしているわけではない。構成から見てても、前半のダークな雰囲気と、後半の深刻さを欠いたやり取りがチグハグで、いささか散漫な印象がある。しかし、そうした欠点を踏まえても、“ヴェノム”というキャラクターの魅力を、この作品ひとつのなかで可能な限り描ききろうとしたスタンスは評価に値するし、エンタテインメントとして見事に成立している。

 いちおうマーヴェル・コミックの一員ではあるが、現時点で“マーヴェル・シネティック・ユニヴァース”のに加わるかどうかは確定していないらしい。つまり、これ1作きりになる可能性もあるのだが、それはさすがに惜しく思える。知性もあるがどこか荒々しく、他のマーヴェル・ヒーローたちとは異なるルールで動く“彼ら”の活躍をもうちょっと見せて欲しい、そんな気にさせる作品である。この際、『アベンジャーズ』の系譜に合流させず、単独で語り継いでいくのもいいのではなかろうか。



関連作品:

スパイダーマン3

Black & White/ブラック & ホワイト』/『ダークナイト ライジング』/『裏切りのサーカス』/『グレイテスト・ショーマン』/『ワンダーストラック(2017)』/『ゲティ家の身代金』/『ズートピア』/『バタフライ・エフェクト

エイリアン』/『寄生獣』/『寄生獣 完結編