『はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン~』

新宿ピカデリー、スクリーン1への通路途中の壁に掲示されたポスター。

原作:大和和紀(講談社・刊) / 監督:城所聖明 / 脚本:古橋一浩 / プロデューサー:松田章男、井上孝史、川添千世 / 制作プロデューサー:伊藤耕一郎 / キャラクターデザイン:西位輝実 / 総作画監督:伊藤秀樹、大竹紀子、中村深雪 / 演出:野田泰宏、榎本守、高林久弥、城所聖明 / 作画監督:渡邉真由美、鷲田敏弥、大西陽一、一川孝久、飯田清貴、吉岡彩乃 / 背景デザイン:加藤靖忠 / 美術監督:小幡和寛 / 美術設定:藤井綾香、佐藤えみ子 / 撮影監督:秋山涼路 / プロップデザイン:枝松聖 / 設定考証:中條元史 / 色彩設計:辻田邦夫 / 編集:丹彩子 / 音響監督:若林和弘 / 音楽:大島ミチル / 主題歌:早見沙織『新しい朝』 / 声の出演:早見沙織宮野真守櫻井孝宏中井和哉梶裕貴瀬戸麻沙美銀河万丈鈴木れい子麦人谷育子一城みゆ希三宅健太島本須美井上和彦よこざわけい子 / アニメーション制作:日本アニメーション / 配給:Warner Bros.

2018年日本作品 / 上映時間:1時間45分

2018年10月19日日本公開

公式サイト : http://haikarasan.net/

新宿ピカデリーにて初見(2018/10/20) ※舞台挨拶つき上映



[粗筋]

 シベリアで行方を絶った婚約者・伊集院忍少尉(宮野真守)が、満州にいるかも知れない――胡乱な情報に一縷の望みを託し、花村紅緒(早見沙織)は子分格の牛五郎(三宅健太)を伴い、海を越えた。

 現地を跳梁する馬賊を、忍と同じ小隊出身のもと日本軍人を名乗る者が率いている、という噂は本当だったが、しかしそれは忍ではなく、忍の部下である鬼島森吾(中井和哉)であった。そして鬼島は紅緒に、辛い事実を告げる――鬼島はシベリアの地で、吹雪の中で混戦に陥り、忍の姿を見失っていた。あの吹雪の中で生き残っているとは、とうてい思えない。

 けれど、紅緒はまだ諦めなかった。その死を誰も確かめていないなら、忍が生きている可能性はある。そう信じて、紅緒は日本へと戻った。

 青江冬星編集長(櫻井孝宏)のもと、冗談社の記者としてふたたび紅緒は駆け回った。男連中に負けまいと特ダネを捜し求めていたとき、日本に珍客が訪れる。革命により祖国での居場所を失ったロシアの貴族が、日本への亡命を求め、飛行船で国境を越えてきたのだ。

 冬星と共に会見の現場を訪ねた紅緒は、驚愕する。亡命貴族サーシャ・ミハイロフ侯爵は、忍と瓜二つの姿だった。だが、傍らにはラリサ(坂本真綾)という夫人を伴い、ひょんなことから言葉を交わした紅緒にも、反応を示さない。

 果たして、他人のそら似なのだろうか? 紅緒は更に侯爵に接近し、事情を探るべく、冬星と共に策を講じる――



[感想]

 調べてみると、1978年のテレビアニメ版はちょうど、忍に似た貴族が日本に亡命してきたあたりで打ち切りとなっている。つまりこの後編はほとんどが初めて映像化されるパートであり、原作ファンにとっては待望の1本だった、と言える。

 しかし、前編がそうだったように、後編もかなりダイジェスト気味だ。やはり肝心な要素、見所となる場面をしっかり抽出しているが、それ故に場面が飛び飛びになりがちで、すべてリメイクしているにも拘わらず、長尺のテレビシリーズを再編集したかのような印象を与えている。

 また、個人的に残念なのは、本篇のハイライトである終盤の背景が弱い、という点だ。まったく予備知識のない方、旧アニメ版でしか作品に触れていない方のために詳述は避けるが、終盤はある理由から特異な状況で展開する。個人的にはこのくだりこそ作品のもっとも意義の深い場面だ、と思っているのだが、そう捉えると、メインキャスト以外の表現がお座なりなのが気になるのである。あまりに生々しく描写してしまうのも作品のトーンにそぐわない、という判断は予想されるが、それでももう少し、背景やモブの表現に繊細さが欲しかった。結果的に、最後の台詞がいささか浮ついてしまっているのがもったいない。

 とはいえ、若干ダイジェスト気味ではあるが、かつてのテレビシリーズではアニメ化出来なかったミハイロフ侯爵登場以降からのパートに多く尺を割き、じっくり描いていることは好感が持てる。制作が同じ日本アニメーションであり、遺恨を晴らす、という意味合いもあるのだろうが、この物語は侯爵の登場以降のエピソードがあることで深みを増す。そのことを理解し、中心となる登場人物の心情を丁寧に描きだしていることは間違いなく評価に値する。

 もっともそれがよく解るのは、喫茶店のくだりだ。前編でも登場する喫茶店で交わされる会話は、あまりに前編と対照的だ。紅緒が忍に対して抱く想いがより深くなっている一方で、思考が成熟したことも窺わせ、ふたつのシーンのあいだに流れた時間の長さ、経験したことの多さを如実に物語っている。このシーンをしっかり汲み取った点は、このリメイク版の面目躍如たるところだろう。

 ダイジェストの趣は拭えないが、しかし見るべきところはほとんど確実に拾っている。紅緒と忍の恋の顛末はもちろん、欠くことの出来ないキャラクターの心情や物語の決着はしっかり採り上げている。描くべきシーンでは間も取っているので、観る側は適度に感動を噛みしめることも出来るし、しかも終盤はそれが矢継ぎ早に訪れるので、並の映画よりも見応え、充実感がある。

 原作は既に40年以上前の作品ゆえ絵柄はいささか古めかしく、1970年代のカルチャーを引用しているので、恐らく現代の観客にはピンと来ない部分も多い。だが、その波瀾万丈の物語や、女子の憧れを詰めこんだような人物造型、胸をざわつかせるロマンスなど、籠められた要素の魅力は古びていない。現代的な絵柄にし、いま旬の声優を中心に揃えたことで、訴求力を蘇らせた、という点において、本篇は意義のあるリメイクだったし、充分に評価の出来る内容だと思う――でも、だからこそ、やっぱりもっと長尺でじっくり楽しませて欲しかった、と思わずにいられないのだけど。前編から後編まで1年待たせるんなら、変則3クールぐらいでテレビシリーズにしてもよかったんではなかろーか。



関連作品:

はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~

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