『灰とダイヤモンド』

TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭9』当時) 灰とダイヤモンド [DVD]

原題:“Popior i diament” / 原作:イェジ・アンジェイェフスキ / 監督:アンジェイ・ワイダ / 脚本:アンジェイ・ワイダ、イェジ・アンジェイェフスキ / 撮影監督:イエジー・ヴォイチック / 音楽:フィリップ・ノヴァク、ボーダン・ビエンコフスキー / 出演:ズビグニエフ・チブルスキーエヴァ・クジジェフスカ、バクラフ・ザストルジンスキ、アダム・パブリコフスキ、ボグミウ・コビェラ、ジャン・チェチェルスキ、スタニスワフ・ミルスキ / 初公開時配給:ニッポンシネマコーポレーション / 映像ソフト発売元:KADOKAWA

1979年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:久山宏一

1980年8月30日日本公開

午前十時の映画祭9(2018/04/13~2019/03/28開催)上映作品

2010年7月14日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2018/10/02)



[粗筋]

 1945年5月8日。ロンドン亡命政府派の暗殺者として活動するマーチェク(ズビグニエフ・チブルスキー)は教会の傍らで、アンジェイ(アダム・パヴリコフスキ)とともに、労働党党権委員会書記のシチュカ(バクラフ・ザストルジンスキ)を待ち伏せしていた。やがてやって来たトラックに発砲、乗員をすべて射殺して、仲間とともに逃走する。

 だが、情報提供者であるドレヴノフスキと落ち合うため、市長の大臣昇進を祝うパーティーが催されるホテルに潜り込んだふたりは、殺害したのが別人であることを知らされる。

 改めて任務を遂行せねばならなかったが、マーチェクはホテルのバーで働くクリスティーナに話しかけているうちに、恋に落ちてしまう。幼いときから続く戦争のために、命のやり取りしか知らなかったマーチェクの心に、初めて迷いが生じていた……。



[感想]

 生涯、故郷であるポーランドを撮り続けたアンジェイ・ワイダ監督が、そのキャリア初期に発表した、“抵抗3部作”と呼ばれる作品群の掉尾を飾る1本である。

 しかし、本篇が傑作として映画史に残っているのは、かなり複雑であったと思しいポーランドの社会情勢についてろくに知識を持ち合わせていなくても、登場人物たちの特殊な立場や複雑な胸中が察せられる表現の豊かさに起因しているのではなかろうか。事実、私はポーランドの歴史についてまったくと言っていいほど知識の持ち合わせがないが、おおよその関係性や信条は把握出来たし、のちに確かめたところ、おおむね間違ってはいなかった。

 そのうえで本篇は、出来事を辿る限り、監督が体制側かレジスタンスの側か、どちらに重きを置いているのか、決して明確にしていない。それ故に、監督の本来の政治的主張からすると、制作当時の政治情勢であれば上映不能になってもおかしくなかったはずだが、上映が認められている。監督にとっては不本意だったかも知れないが、当時の体制側から読み解いても共感を得られる解釈が可能だからこその事実だ。

 そして、そもそもそうした政治的主張から距離を置いたとしても、本篇で中心的に描かれるマーチェクのドラマは、観る者の感情を揺さぶらずにおかない。まるで日常の延長のように人を殺し、その後のパーティにも平然と潜入する。人違いであることを知って動揺はするが、本来のターゲットを狙うことには躊躇いを覚えていない。だがその一方で、バーの女性・クリスティーナに声をかけ、彼女と親しくなることで、戦争とは無縁の生き方への憧れを思い出す。

 マーチェクの姿は、生まれたときから戦争や内紛が続き、常に流血沙汰と背中合わせに生きて来た若者ならではだ。そのことにさほど疑問を抱いていなかったはずが、クリスティーナと会話を交わし、想いを通わせることで、平穏に暮らす、という幸せを恐らくは初めて、本気で夢想する。結果、アンジェイと袂を分かち、そしてあの結末へ向かっていく。さながら、戦争が繰り返す国で生きていく者の哀れを、如実に象徴するかのような有様だ。

 子供に請われて教会の扉を開けようとするくだりや、終盤のパーティにおけるダンスシーンなど、ときどき間の抜けたような描写が差し挟まれる。しかしそれが、命のやり取りをしているひとびとを描いているわりにはどこか弛緩した印象のある物語を却って引き締めている。どこか朽ちた印象のある舞台を、見事な構図で一幅の絵のように切り取るカメラワークも、物語に神秘的な彩りを添えている。当時“ポーランドジェームズ・ディーン”と呼ばれたらしいマーチェク役ズビグニエフ・チブルスキーの、人懐っこくも繊細な表情もまた、作品に華やかさと虚しさとを添えている。

 恐らく、当時のポーランド情勢に通じているほうがより深く読み解けるのだろう。けれど、そうした予備知識を抜きにしても、本篇は充分に味わい甲斐がある。如何せん、当時らしくのんびりとしたトーンがやや退屈に感じられる面もあるが、作品としての質は高い。それこそジェームズ・ディーン出演作を筆頭とするこの当時のハリウッドの傑作群にひけを取らない名作である、と思う。



関連作品:

カサブランカ』/『君のためなら千回でも』/『ディファイアンス』/『ワルキューレ』/『シャンハイ』/『マリアンヌ

ぼくの神さま』/『暗い日曜日』/『戦場のピアニスト』/『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち

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