『箱入り息子の恋』

箱入り息子の恋 Blu-rayファーストラブ・エディション

監督&脚本:市井昌秀 / 共同脚本:田村孝裕 / プロデューサー:武部由実子、中林千賀子 / 製作総指揮:木下直哉水口昌彦、斎藤正登 / 撮影:相馬大輔 / 照明:佐藤浩太 / 装飾:松田光畝 / 編集:洲崎千恵子 / 衣装:高橋さやか / ヘアメイク:内城千栄子 / 録音:尾崎聡 / 音楽:高田漣 / 主題歌:高田漣 feat. 細野晴臣『熱の中』 / 出演:星野源夏帆平泉成、森山良子、大杉漣黒木瞳、穂のか、柳俊太郎、竹内都子古舘寛治 / 制作プロダクション:kino films、ブースタープロジェクト / 配給:kino films / 映像ソフト発売元:Pony Canyon

2013年日本作品 / 上映時間:1時間57分

2013年6月8日日本公開

2013年12月4日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.hakoiri-movie.com/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2017/3/28) ※ドリパスでの上映



[粗筋]

 天雫健太郎(星野源)35歳、独身。これまでまったく女っ気がなく、取り柄と言えば市役所に勤めて13年間、無遅刻無欠勤を通していることくらい。趣味もテレビゲームとカエルの飼育くらいで、稼いだ金はほとんど貯金に回している。

 極めて珍しい姓だが、このままでは家名が絶えてしまう、と憂えた父の寿男(平泉成)と母のフミ(森山良子)は一計を講じる。健太郎に黙って代理見合いに申し込み、見合い相手を探したのだ。

 如何せん、魅力的とは言い難い健太郎のプロフィールに食いつく相手はほとんどいなかったが、ひとつだけ正式な見合いの申し出が来た。

 両親の根気強い説得にやむなく健太郎は見合いに赴くが、そこに現れた相手の今井奈穂子(夏帆)は盲目の女性だった。プロフィールになかった事実に困惑する寿男とフミに追い打ちをかけるように、奈穂子の父・晃(大杉漣)はまるで野心も覇気もない健太郎の経歴を容赦なく批判し、健太郎のような男に、障害を持つ奈穂子を任せられない、と言い切った。

 それまでほとんど口を利かなかった健太郎だが、晃の言葉には、しかしたどたどしくも明確に反論する。晃こそが障害に囚われて、奈穂子の意志を軽視しているのではないか、と。

 けっきょく見合いの席はお開きとなった。この件のわだかまりから健太郎は両親ともいくぶん距離を置くようになる。

 しかし、それから間もなく、公園で昼食を摂っていた健太郎のもとを、母親の玲子(黒木瞳)に連れられた奈穂子が訪ねてきた。晃とは反対に、奈穂子の気持ちを尊重しようとした健太郎を、奈穂子と玲子は認めていたのだ――



[感想]

 もともとミュージシャンとしてキャリアをスタートさせたが、2016年、『逃げるは恥だが役に立つ』の大ヒットにより、俳優としても一躍注目を浴びることになった星野源の、ヒットから遡ること3年前に初めて主演を飾った映画である。

 この星野源というタレント(と敢えて表現させてもらう)の魅力はちょっと風変わりだ。一般的にその名が認知されたのはここ数年と思われるが、活動初期からサブカル界での人気は高かった。特に女性受けは良かったようだが、ぶっちゃけ顔立ちが圧倒的に整っているわけではない。ただ、自ら編曲まで手懸ける楽曲のクオリティから察せられるように独自の感性を備えていて、唯一無二の魅力を放っている。他方で様々なところで覗かせる趣味嗜好はだいぶマニアックで、昔は「ホテルで自撮りをして遊んでいる」などと語ったり、自身のラジオではアニソンへの言及もあったりする。

 と、メディアに垣間見せる本質はかなり自由なのだが、それが不思議と本篇のような、ある意味ピュアだが生きるのが窮屈そうな人物にぴったりとハマっている。どちらかというと茫洋とした表情が、序盤の表情の乏しい頑なさを自然に感じさせるようだ。

 そして、序盤で“変人”ぶりをはっきりと見せつけているから、恋に落ちてからの変化が実に劇的だ。最初からどこかユーモラスではあったが、奈穂子に惹かれはじめると、不器用に自分を変えようと試み、やがて突拍子もない行動に及ぶようになる。さすがに少々、融通が効かないにもほどがあるのでは、という気がするが、本当に恋愛に関心がなく、初めて女性と積極的に触れ合おうとする男のぎこちなさ、無様さ、純粋さを、決して露悪に行きすぎず巧みに演じている。

 それにしてもこの作品、終始ユーモアで彩りつつも、表現は情感に富み、扱っている題材も現代的でリアルだ。30代を過ぎて結婚にも友人関係にも興味のない男に、それ故に家系が絶えてしまうことを心配する親。かと思うと、障害を持つ娘の先行きを心配して良縁を求める親もある。奈穂子の父親・晃が会ってすぐの健太郎を悪し様に言うのも、いいことではないが心情は理解できる。

 しかし、本篇の最大の美点は、障害との接し方の匙加減だろう、いささか悲観的で独善が過ぎる奈穂子の父の発言を健太郎が諫めるくだりでまず瞠目させられるが、そこから親しくなっていく過程の描写が秀逸だ。目の見えない恋人をどのようにサポートしたらいいのか、考えながら工夫を凝らす様がとても誠実で、しかも妙に愛らしい。特に、一緒に吉野屋を訪れたシーンで、最初は奈穂子の左隣に座っていた健太郎が、左利きの奈穂子の動きやすいようにそっと右隣に移るシーンは、とても繊細で微笑ましい。

 終盤にさしかかってからのドラマティックな展開もいい。ここで発生する悲劇はやもすると月並みなドラマになりかねないものなのだが、そこからこの設定ならではの胸を締め付けられるような描写が続き、思いがけず疾走感のあるクライマックスへと突き進む。およそ一般的なラブストーリーではあり得ないシチュエーションで繰り広げられるやり取りは切なくもその後への素晴らしい布石となっていて、この作品の白眉と言っていい。

 最後はちょっと必死すぎてみっともないくらいだが、そのひたむきさを応援したくなるし、思わず共感させられてしまう。終わると優しい気持ちになって、もうちょっと無様に生きてもいいのかな、という気分にさせてくれる、いい作品である。



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