『思い出のマーニー』

TOHOシネマズスカラ座、ロビーに展示された看板。

英題:“When Marnie was There” / 原作:ジョーン・G・ロビンソン / 監督:米林宏昌 / 脚本:丹羽圭子、安藤雅司米林宏昌 / プロデューサー:西村義明 / 製作総指揮: / 作画監督安藤雅司 / 動画検査:大橋実 / 美術監督種田陽平 / 色指定:加島優生 / 編集:松原理恵 / アフレコ演出:木村絵理子 / 映像演出:奥井敦 / 音響演出:笠松広司 / 音楽:村松崇継 / 主題歌:プリシラ・アーン“Fine on the Outside” / 声の出演:高月彩良有村架純松嶋菜々子寺島進根岸季衣、森山良子、吉行和子黒木瞳森崎博之安田顕、戸次重幸、大泉洋音尾琢真 / 制作:星野康二、スタジオジブリ / 配給:東宝

2014年日本作品 / 上映時間:1時間43分

2014年7月19日日本公開

公式サイト : http://marnie.jp/

TOHOシネマズスカラ座にて初見(2014/07/19)



[粗筋]

 杏奈(高月彩良)は喘息の療養をするため、夏休みのあいだ札幌を離れ、根室駅から車で移動した先の小さな村に身を寄せることになった。

 杏奈を預かった大岩清正(寺島進)とセツ(根岸季衣)の夫婦はとても善良だったが、杏奈は心を開こうとはしなかった。セツの勧めに応じて、近所に住む信子という少女たちと七夕祭りに出かけるが、信子のお節介な態度に苛立ち、杏奈は思わず口汚く罵ってしまう。

 居たたまれず逃げ出した杏奈が向かったのは、村に広がる湿地帯だった。対岸には地元で“湿っ地屋敷”と呼ばれる朽ちた洋館が佇んでおり、杏奈は何故かその光景に見覚えがあるようで、折に触れ訪れていた。

 満潮で潮が満ちた湿地には、ボートが繋留してあった。誘われるように漕ぎ出した杏奈は、廃墟となっているはずの屋敷から飛びだしてきた少女に迎え入れられる。金髪碧眼の美しい少女は、屋敷を見つめる杏奈のことに気づいていた、と言い、杏奈はそんな彼女に昔からの友達のような親しみを感じた。

 翌る日、満潮を待って、ふたたび杏奈は湿地へと赴いた。少女はボートを漕いで、杏奈の前に現れた。このとき初めてマーニー(有村架純)と名乗った。ふたりはお互いに質問しあい、少しずつお互いを知っていく……



[感想]

 個人的には頭から尻尾まで、非常に親しみ深い内容だった――のだが、そのあたりをすべて具体的に記すことは控えたい。気づかないなら気づかないで接したほうが、恐らくずっと胸に響くはずだから。

 そのあたりを置いて特筆すべきはやはり、杏奈という人物像の巧みさに絞られる。

 誰もがそうだ、というわけではないだろうし、杏奈の境遇はほかのひとよりも不運に見舞われている傾向にあるが、しかし杏奈がナレーションで漏らす想いは、多くのひとが抱えているものだろう。自分は他人の輪のなかにうまく入れない、外にいる人間だ、という想い。そこに溶け込んでいくことが出来ず、卑屈な思考に陥ってしまう自分に対しても嫌悪感を抱いている。この疎外感、孤独感に共鳴するひとも少なくないはずである――そういう杏奈のある意味での“我が儘”を批判できるのは、少々無神経なものの考え方をしているか、よほど幸せな暮らしを送っているひとだろう。

 そういう杏奈だから、療養のために滞在した大岩家や近所のひとびとの親切にも打ち解けず、前々から好きだったスケッチに夢中になる。そして、ひとびとから忘れられ、打ち棄てられたような湿っ地屋敷と、そこにちらつく光景に心惹かれていった。

 この作品のベースとなる趣向は、ある種のフィクションに親しんでいるひとにはごく解りやすい一方で、本篇の描き方だと、知識のないひとには少々伝わりにくいきらいがあるように思う。そこで観客をやや選んでいる感があるが、ただそこから、物語が佳境に入っていくあいだの空気の心地好さは特筆すべき本篇の魅力ともなっている。

 宮崎駿高畑勲両監督の完成させてきたスタジオジブリ作品のイメージは、あとになればなるほど、一種“フリーク”化していったきらいがある。現実には存在しない風変わりな生き物たちが闊歩し、主人公もちょっと変わった造形の子供たちであったり年寄りであったり、と一般的なフィクションの定番からどんどん離れていった。それはそれで意義のあることだが、初期のジブリ作品にあった、ヒロインの存在感、目を釘付けにされるような魅力から遠ざかっていたのが惜しまれるところでもあった。

 そう考えると本篇の、ふたり並んだヒロイン、双方の決して人間離れしていない存在感と、だからこその魅力には目が醒めるような心地がする。本篇を監督した米林宏昌は初めて監督に抜擢された『借りぐらしのアリエッティ』にてタイトルロールの小人の少女に、まさにジブリ初期作品のヒロインたちに通じる魅力を与えることに成功しているが、本篇ではその手腕をより研ぎ澄ませたように思う。ヒロインふたりともキャラクターの肉付けは決して現実離れしたものではないが、採り上げる要素と表現とで、素晴らしく魅力的に描かれている。

 特に評価したいのは、人物の肉感的な表現である――決して卑猥な意味ではない。たとえば手を握りあう、ダンスを踊る、抱擁する、といった行動ひとつひとつに、実感があるのだ。だから人物に躍動感があり、その華奢さも、生命力も滲み出てくる。冷静に考えればそれほど特異ではない出来事が、少女たちにとって忘れがたいものになっていったのが解るのだ。

 率直に言えば本篇は、ヴィジュアルに突出したものが少ないので、映像的に際立った印象を残しにくい嫌みはある。だが、だからこそ本篇は空想的でありながらも、親しさを感じさせるのだろう。

 観終わったあと――杏奈の境遇に反感を抱くようなひとでもない限り、きっと心地好い幸福感に包まれているはずだ。驚きと優しさと歓びに彩られた、静かだが忘れがたい佳篇である。





関連作品:

借りぐらしのアリエッティ』/『ゲド戦記』/『コクリコ坂から』/『パプリカ

千と千尋の神隠し』/『猫の恩返し』/『ハウルの動く城』/『崖の上のポニョ』/『風立ちぬ』/『かぐや姫の物語

犬神家の一族』/『清須会議』/『スチームボーイ』/『妖怪大戦争』/『アンを探して』/『日本列島 いきものたちの物語』/『レイトン教授と永遠の歌姫

異人たちとの夏』/『おおかみこどもの雨と雪』/『アナと雪の女王